エリカ以外に、ここを訪れる人なんていない。
僅かな期待を感じて、俺の表情が次第に強ばっていく。
そんなはずない、あいつは仕事中だ。
立ったまま動けないでいると、また呼び鈴の音が鳴らされた。
「……」
タバコを携帯灰皿に押し込みながら、俺は玄関の方へと進んでいく。
扉を開ける瞬間、俺は息を飲んでいた。
「あ、あの…翔太くん久しぶり…」
だけど目に入って来たのは、予想もしていなかった人物で。
「……は?」
およそ二年ぶりに見た奈良崎梓の姿に、俺は思わず口を開けたまま固まった。
なんで仙台にいるのかと、そんな、当たり前の疑問が湧いてくる。
「東京のお店でスタッフの人にに聞いたら…仙台に行ったって聞いて…。懐かしくなって、会いに来ちゃった。翔太くんのお部屋もね、毎日後つけてやっとわかったの。翔太くん、車だから追いかけるの大変だったんだよ?」
淡々とそんな事を喋りだした奈良橋に、背筋が凍りつく。
「前ね、警察の人に、翔太くんには近づくなってひどいこと言われたんだよ。でももういいよね。だって私、二年も我慢したんだもん」