「パパだ!」
寧々は歓声をあげ、真っ直ぐに天草紘人の元へと駆け寄っていく。
その愛らしい瞳には、俺の姿なんて少しも映っていなかった。
「お、おいで…寧々」
急に涙を滲ませた天草紘人に向けて、寧々は恥ずかしそうに頬を染め、顔を綻ばせている。
寧々の顔を見た瞬間、振り上げていた腕の力が、一気に抜けていった。
「わーい!ママ、パパがいるよ!」
俺がずっと寧々に呼んでほしかったその呼び名を、天草紘人には簡単に発している。
寧々と天草紘人の関係を表す決定的な証拠を突きつけられて、俺はその場に膝から崩れ落ちそうになってしまった。
「パパ、あのね、サンタさんがねー」
「う、うわ、こんなにもう喋るのか…」
「そうだよ。寧々、色んな言葉覚えたもんね」
エリカの笑顔も、寧々の笑顔も。苦しくて、ちゃんと見ることができない。
あそこは紛れもなく、家族と呼べる人たちの空間で。
俺はそこから、完全に一人だけ切り離されていた。
(…邪魔者はもう、消えるしかないんだな)
あまりにも、呆気ない終わり方だった。
長い恋の結末に背を向けて、俺はエリカの部屋から出ていく。
目頭が熱くなって、視界が霞んでくる。
俺にはもう、何も見えない。
夢も希望も、指輪と共にエリカの部屋に置いてきてしまった。