エリカがそうはっきりと口にした瞬間、頭の中が真っ白になる。
まるで足元から下が、崩れ落ちていくような気分だった。
ぼやけて焦点が合わなくなってきた俺の視界の中に、エリカと天草紘人が視線を交じ合わせている姿が入る。
…これは夢だ。
エリカが俺を裏切って、そんな男と愛し合っていたはずがない。
納得出来なくて首を横に振った俺のそばに、天草紘人がゆっくりと近づいてきていた。
「寧々が大変お世話になったとエリカから聞いてます。これからは俺が責任持って…」
「……!」
あまりにもふざけた言葉に、俺の怒りのボルテージが一気に上がっていく。
…責任だって?
妻子持ちのお前が言える言葉じゃない。
まさかエリカを愛人として囲おうなんて、そんな馬鹿なこと考えたりしてないよな?
たとえエリカが許しても、俺が絶対に許さない。
「…ふざけんなっ!」
無我夢中で天草紘人に詰め寄った俺は、真横の壁を拳で思い切り殴りつける。
「俺が今まで…どんな思いで…」
エリカや寧々と過ごしてきた日々が、今になって鮮明に浮かんでくる。
ここに来てからずっと幸せで、毎日を過ごすのが楽しくて仕方なかった。
俺はそれを、こんないきなり出てきた奴に奪われるっていうのか…?