「そんなの…嘘だ…」

小さな声でそう呟いた俺のことを、エリカはもう見ようとすらしない。

「ごめんね、明日帰るのにわざわざ来てもらって…」

「平気。それより…大丈夫なのか?」

「うん。今話してるから、中入って。寒かったでしょ」

そればかりか、安心したような穏やかな顔を浮かべて、玄関口に立っていたその男を部屋の中に招き入れていた。

「…こんばんは。天草紘人と申します」

真剣な面差しで俺を見つめてくるその男を、俺は憎悪に満ちた目で真っ直ぐ睨み返す。

悠長に自己紹介されても、こっちは返す気にすらなれない。

心に沸き上がってくるのは、真っ黒な怒りと負の感情だけで。

今すぐその綺麗な顔を殴り飛ばしたくなるのを、俺は手を握り締めながら必死で堪えていた。

(…違う。絶対に違う)

エリカが、俺を裏切っているはずなんかない。

こんな最低な奴に唆されて、深い関係になるような愚かな女じゃない…。

……何より寧々は。

俺と、エリカの……。




「橘マネージャーが寧々を自分の子だって勘違いしてるのわかってて、ずっと黙ってた。…ごめん。ひろくんが正真正銘、寧々の父親だよ」