「さっき、私が呼んだ」

エリカはさっきとうって変わって、人形のように感情のない表情を浮かべている。

俺たちの目の前にいるのは、おそらくエリカの幼なじみであるあの男。

一度見たことがあったその風貌を、俺は忘れることが出来なかった。

「なんのためだ」

「もちろん、寧々のためだよ」

…意味がわからない。

なんで、こいつがここに来ることが、寧々のためになるんだ。

食ってかかる勢いの俺を、エリカが鋭い瞳で睨みつけてくる。

…何でもないって言ってたくせに。

あれは全部、嘘だったっていうのか?

「嘘だ…そんなこと、あるわけがない」

「私、まだ何も言ってないけど」

エリカは口元に笑みを浮かべながら、俺を馬鹿にするように笑いを含んだ声をあげる。

「俺よりも、…こいつの可能性のほうがありえないだろ」

「なんで?なんの根拠があって?」

「それはお前が…」

一途で、思いやりがあって。…人の家庭を壊す真似なんて、絶対出来ない女だから。

そう思ったから、俺は信じたのに。

「いつまで私のこと、二股なんて出来ない純粋な女だって思ってるの?ひろくんも東京に住んでるんだから、そんなこといくらでも可能だったのに」