最初にプロポーズしたあの日以来、初めてエリカのことを名前で呼んだ。
ピンと張り詰めたような空気に、緊張が走る。
「何があっても、俺の気持ちは変わらない。…だからお前に、これを受け取ってほしい」
手に持ったジュエリーケースの重みを、俺は痛いほど理解している。
見開かれた大きな瞳から視線を逸らすことなく、俺はそれをエリカの前に差し出していた。
エリカは苦しげな表情で、俺をじっと見据えている。
胸のあたりで握りしめた小さな手は、小刻みに震えていた。
「…本当は二年前に、エリカに渡そうと思ってたやつなんだ」
あの時の苦々しい気持ちがこみ上げてきて、胸の辺りが詰まったように苦しくなる。
あれから、本当に色々なことがあったけど。
…エリカのことを忘れた日なんて、一度もなかった。
「俺、あの時…」
「…めて」
言葉を続けようとした俺の声を、弱々しいエリカの声が遮る。
なんだか、さっきから様子がおかしい。
エリカは痛みに耐えるような表情を浮かべながら、悲しげな目で俺の持っているリングを見つめていた。
喜んでいるようには、とても見えない。
「やめて…っそんなの、いらない…!あなたとなんて、絶対に結婚しない…!」