ブツブツと文句を言いながら、エリカは俺と寧々が散らかした積み木をボックスの中に片付けている。
伏せられた長いまつ毛に、ふと感じた違和感。
いつも上向きなまつ毛は下を向いていて、目尻に少しアイシャドウが滲んでいる気がする。
「お前、…何その顔」
近づいてじっと見てみれば、目が少し赤くなっていた。。
「泣いた?」
「泣いてないから。さっき両目にゴミが入って、すごい勢いで擦っちゃっただけ!!」
(…嘘つけ…)
理由を話そうとしないところはムカつくし、あいつになにかされたんじゃないかって心配にもなる。
「…橘マネージャーって私のこと美化しすぎ。大体、そんなに純粋な女じゃないと思うけど」
「確かに、もうあっちの方は純粋ではないな」
話題を逸らそうとするエリカにムッとして、つい意地悪な言い方をしてしまう。
「もういい。聞いた私がバカだった。寧々、帰ろ」
違う、言いたいのはこんなことじゃない。
寧々にコートを着せ帰り支度を始めたエリカの背中を、俺はただじっと見つめていた。
「おい。ちゃんとタクシー拾って帰れよ」
「はいはい。寧々様に寒い思いはさせませんからご心配なく」
「お前のことも心配して言ってるんだ」
そう声をかければ、一瞬エリカの動きが停止する。
「…もう若くないんだから。身体労われよ」
「ひと言多いし、あなたに言われたくない」
照れ隠しでそう言えば、頬の辺りが少しだけ熱くなってしまった。