「ご苦労様です。寧々ちゃんのパパ」

「……!」

息を切らせて駆け込んだ保育所の中で、エリカの友人の由子さんが、俺に朗らかな笑顔を向けてくる。

“寧々ちゃんのパパ”なんて面と向かって言われると、どことなく気恥ずかしい気持ちになった。

「あ、あの。エリカはまだ、迎えに来てないですか?」

「寧々ちゃんまだ保育室にいますから、来てないと思いますよ」

「…そうですか」

(どこかで、追い抜かしたのか?)

エリカが寧々を一人預けたままどこかに行ったとは考えにくいのに、何だか胸騒ぎがする。

まさか本当に、あの幼馴染に会いに行ったのか…?

複雑な気持ちを抱えたまま、保育室の中で元気に遊んでいる寧々に視線を送る。

「しょうちゃん!」

すぐ俺に気づいて駆け寄ってきた寧々に、俺は精一杯の笑顔を作っていた。

「もうかえる?」

「…まだだよ。もうすぐ、ママが迎えにくるから。俺と遊んで待ってよう」

「やった!こっち、こっち」

寧々に手を引っ張られて、俺は積み木のコーナーまで一緒に向かっていく。

中にいた他の保育士さんに頭を下げると、頬を染めながら頭を下げられてしまった。

(休憩時間がが終わるまでに、エリカが迎えに来ればいいけど…)

俺がいなくなったら、寧々はきっと寂しがるだろう。

「すごいなぁ寧々は。こんなに高く詰めるのか」

「えへへー」

寧々の頭に手を置いて、柔らかい栗色の髪の毛を撫でる。

「しょうちゃん、すきー」

寧々が屈託のない笑顔を浮かべながらそんなことを言うから、俺はたまらずその小さな身体を抱きしめてしまった。