結城が二杯目のカクテルを飲み干すと、とろんとした瞳で蕩けそうな笑顔を作る。
白い首筋がやけに扇情的で、俺はゴクリと息を飲んでいた。
「これ美味しい。なんていうの?」
「…レディーキラー」
「へ?」
「心配すんな。酔っ払って動けなくなったら、持ち帰ってやるから」
そんなの冗談のつもりだった。
たとえ結城を家まで送っても、今日は手を出さないで帰してやろうと思ったのに。
「んー…なんか眠くなってきた」
うつらうつらしていた結城の腰にそっと手を添えると、華奢な肩が俺の胸にしなだれかかってくる。
むせ返るような芳香に、身体の芯が疼きだす。
香水をつけていないはずの結城の身体から、なぜか甘い香りがした。
こいつは、飽きることなく9年も同じ相手を思い続けていたんだ。
焦って今手を出しても、俺のものになる可能性は0に等しい。
それどころか益々嫌われてしまうかもしれない。
「今日…あり、がと」
まるで独り言のように呟かれたその言葉が、俺の胸を打った。
気づけば結城の背中に手を回して、意識の途切れそうな身体を強く抱きしめる。
今夜どころか、もう一瞬たりとも手放せそうにない。
結城を落とすため慎重に組み立てていた算段は、あっという間に俺の頭から吹き飛んでいた。