「なんだよ…」
表示された番号は全く知らないもので、俺は激しく落胆し枕に顔を埋める。
悪戯電話だと思ったが、なかなか切れる気配はない。
俺は小さく舌打ちをしながら、通話に切り替える。
もし今この瞬間エリカが俺に電話をかけて話し中になったりしたら、それこそたまったもんじゃない。
「…はい」
不機嫌を全面に押し出したような声で電話に出た俺の耳に、聞き覚えのある高い声が聞こえてきた。
「…あ、あのぉー橘マネージャーの携帯で間違いありませんかぁ?」
おずおずと話すその様子に、まず激しい疑問が生じる。
自分の番号を教えた覚えはないのに、なぜ、こいつか俺に掛けてくる?
「お前は…」
「ご、ご無沙汰しておりますぅ…。白鷺ゆりですぅ」
おそらく今、一番聞きたくない声かもしれない。
俺がエリカに避けられるような原因を作ったのは、ほとんどこの女のせいだと言っても過言ではないのだから。
「無断欠勤して勝手に辞めた奴に、俺は何も用はない」
今までのように善人面する必要のないと感じた俺は、冷たい声で電話の向こうにいる白鷺に向かって言い放つ。
「ま、待ってください!話だけでもぉ…!」
大体、勝手に人の番号を調べるなんて非常識にも程がある。
過去にストーカーされた奈良橋の件もあるから、俺はこの手の女の行動に警戒心を抱かずにはいられない。