こんなことで、結城が喜ぶなんて思いもしなかった。
俺のことなんて、口うるさい上司ぐらいにしか思ってないと思ってたから。
「…あ~、もうどうしよ」
目尻に浮かんできた涙を、結城は笑いながら拭っている。
そんなに、俺に褒められたかったのか?
結城にとって、もしかしたら俺は特別な存在なのか?
心には止めどなく熱い感情が流れ込んでくる。
でもそんな淡い期待は、結城の次の言葉に一瞬で砕かれていた。
「実は最近、失恋して…」
冷たい氷を、頭へ一気に落とされたような気分だった。
それと同時にどす黒い感情が沸き上がってくる。
他の男を思って寂しそうに笑う結城の横顔に、俺の姿は映っていない。
こいつが誰かのものだったなんて、俺は今まで想像すらしてなかった。
「………へぇ。お前って付き合ってるやついたんだ」
だいぶ遅れて発した声の重さには、ドロドロとした感情が含まれている。
「違う違う。…幼馴染のお兄ちゃんに小さい頃からずっと片思いしてたんだけど、その、…今度結婚することになったらしくて…」
「…ふーん」
そんな奴に惚れてんじゃねぇよ。
だからお前は馬鹿なんだ。
苛立ちを隠すように、一気に酒を煽る。
全く酔える気がしない。
「ずっと…小五の時から片思いしてたの。もう超かっこよくて優しくて、本当に王子様みたいな人で…」
聞きたくもない結城の話に耳を傾けながら、俺はもう心の中で辟易していた。