「…ふぇっ……ママぁっ…」
聞こえた寧々の泣き声に、お互い顔を見合わせてはっとした。
「ど、どいて…!」
上にのしかかっていた俺を押しのけて、エリカは即座に起き上がり、何事もなかったかのように寝室の方へ向かっていく。
取り残された俺は、その場でしばし呆然としていた。
はだけたシャツからのぞく素肌の部分が、急激に冷たくなっていく。
(俺は、今、何を―――)
唇に触れてみれば、先ほどのキスの激しさを物語るように、まだしっとりと濡れている。
震える指先には、エリカの生々しい肌の感触が、しっかりと残されていた。
寝室から聞こえてきた寧々の泣き声が、どんどん小さくなって、やがてぴたりと止んだ。
正直寧々が泣かなかったら、ことは最後まで及んでいただろう。
こっちにエリカが戻ってきたら、俺は一体どういう反応を示したらいいのかわからない。
明らかに現実で起こったことなのに、俺はまだ夢だったんじゃないかと思わずにはいられなかった。
わかるのは、俺だけじゃなく、エリカの方からも確かに求めてくれたということ。
(…夢じゃない)
エリカが戻ってくることを期待して待っていた俺は、気が付けば、ソファーの上で目を閉じてしまっていた。