「いや別に…。それであと、どれくらいかかりそうなんだ？」
「多分、そんなに遅くまではかからないと思うけど…」
そんなに遅くないといっても、時計はすでに二十二時を回ろうとしている。
聞けば寧々を預けている保育所は、もうすぐ閉まってしまうらしい。
俺が来なかったら、一体どうする気だったんだ…。
「じゃあお前はもう上がれ。あとは俺がひとりでやる」
「やっ、ダメだって…！私が考えたレイアウト、結構複雑で説明してる時間がもったいない！いいよ。ギリギリまでやって、明日の朝5時起きで出社して続きやるから」
寧々の負担が大きくなる働き方は、正直言ってやめてほしい。
でもどれだけ変わると言って説得しようとしても、エリカは自分でやりたいと言って俺の言うことを聞こうとしなかった。
本当に、変なところで頑固なやつだ。
「売り場を譲る気はないんだな…！じゃあ俺に寧々を譲れ」
「…はっ？」
「俺が今から迎えに行って、寧々のことは全部やっておく。お前は心おきなく仕事に励んでくれ」
「い、いくらなんでも…それは…」
狼狽えるエリカに、財布から出したお札を無理やり握らせる。
「決まりだ。お前も帰りは必ずタクシーで帰ってこい。いいな！」
「…えっ、ちょっと待ってよ！ねぇ！」
どうせご飯の準備は俺が担当しているんだから、何も問題はない。
まだ何か言っているエリカを売り場に残して、俺は寧々の待っている保育所へ、足を走らせていた。
