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「では、こちらでよろしいですか?」

「はい。お願いします」

カタログに載ったシンプルな指輪を見つめながら、俺は頬を緩めて小さく息を吐いた。

見た目はシンプルでも、プラチナにダイヤが付いたものになれば、それなりの値段はする。

冬のボーナスは一気に飛んだが、これで俺の本気が伝わるなら、惜しくもなんともない。

エリカに再度結婚を迫った翌日、俺は二年前婚約指輪を購入したところと同じ仙台支店のジュエリーショップに、一人で足を運んでいた。

「すみません、橘様。こちら名入れとデザイン変更を合わせますと、クリスマスイブの納期には間に合わないのですが…」

「大体どのくらいで出来上がりますか?」

「こちらは職人がひとつひとつ製造しているものになりますので…早くて三週間…。最短でも、年明けのお渡しになります」

俺があのマンションにいられるのは、年末休みに入る二十八日までになっている。

数日だけだし、こっちでホテルにでも泊まって待てばいいか…。

こっちに残ったほうが、初売りの準備だけでも閉店後に手伝ってやれるし。

「じゃあ、それでお願いします」

「かしこまりました」

何よりも、エリカと過ごせる時間を少しでも伸ばしたい。

タイムリミットは、元旦まで。

クリスマスに婚約指輪を渡して、お正月には結婚指輪を渡す。

エリカを振り向かせるための計略を、俺はしっかりと頭の中に思い浮かべていた。