“好きな人”
それに俺が当てはまらないとはっきり示されて、目の前が一気に暗くなっていく。
「お前…好きな奴…、いるのか」
「……」
気まずそうに黙り込んでしまったエリカの答えを、俺は肯定と受け取るしかない。
…それが誰なのかは、もう考えたくもなかった。
だってエリカのことを、俺以外の奴になんて絶対渡したくない。
激しい嫉妬に駆り立てられた俺には、もう形振り構ってる余裕さえなく、エリカに向かって宣言していた。
「お前に好きな奴がいようがいまいが、俺は諦めるつもりなんてないからな」
「な、なんなの…バカじゃないの…っ?」
信号待ちの車内で、俺はエリカの方を振り返り、鋭い視線を向ける。
エリカは頬のあたりを両手で押さえながら、俺から目を背けていた。
「ああ。自分でもありえないくらいバカだと思ってる。それでも俺は、お前と結婚したいんだ」
「しないっていってるでしょ。結婚結婚ってしつこいな!」
「お前がうんざりして頷くまで、何度でも言ってやる。覚悟しとけよ」
散々食い下がった俺を、エリカが心底迷惑そうな瞳で見つめてくる。
「……~っ。勝手にすれば」
結局最後にエリカを言い負かした俺は、ここに来てから一番清々しい笑顔を浮かべていた。