「……!」

背中から聞こえてきた冷たい声に、俺は表情を凍りつかせる。

暗い車内ではエリカの表情が読み取れないが、その声には明らかな怒気が含まれていた。

「…なんで…」

「うちの従業員はみんな知ってると思うよ。あんなにあからさまな態度なんだから」

「…ああ、うん。でも飯に誘われても、俺はちゃんと断ったてきたし…」

白鷺さんに言われたことを、わざわざエリカに伝えて不安にさせるつもりはない。

それよりも、エリカが嫉妬してくれていることが嬉しくて、動揺から声が少し裏返ってしまった。

「別に、私たちのことは気にせず遊んできてもいいよ。好きでしょ?ああいう若くて可愛い子が」

続いたエリカの言葉に、俺は思いきり頭を殴られたような衝撃を受ける。

「…どういう意味だ」

「だから、私と寧々に構ってばかりいないで、もう少し周りに目を向けてみたらいいじゃん、ってこと。…あ、もしかして東京にも残してきた彼女とかいたりして?」

エリカに背中を向けながら、俺はゆっくり目を閉じた。

これまで、俺がしてきたことは無駄だったんだろうか。

毎日家に通って飯作って、送り迎えもして。

…エリカが心を開いてきてくれていると感じたのは、俺の独りよがりな妄想だったのか。

何も伝わっていないどころか、俺がただ遊びの女としてエリカに構っていると思われている。

それがどうしようもないくらい、…悲しくてしょうがなかった。