車に乗っている二人の姿を確認し、俺はすぐさまそばへと駆け寄っていく。
エンジンの音が聞こえないということは、エアコンもついておらず、車内の温度は決して暖かくはないのだろう。
呑気に窓ガラスに絵を描いているエリカと寧々を見た瞬間、俺は呆れたような笑みを浮かべていた。
「全く…」
人がどれだけ心配しているのかなんて、エリカにわかるはずがない。
さっさと運転席に乗り込んだ俺は、エリカからすぐにキーを奪い取ってエンジンを回し、エアコンを全開でつけていた。
「しょうちゃん、おかえりっ」
「…ただいま」
寧々の笑顔を見ていると、一日の疲れなんてあっと言う間に飛んでいってしまう。
エリカと同じ柔らかな髪質の頭を、俺は目を細めながら、優しくぽんぽんと撫でていた。
寧々が満足そうな顔を浮かべているのに対して、エリカは何か物言いたげな、複雑な表情を浮かべている。
もしかして…俺と白鷺さんが二人きりでなにかしてたって…疑われているのだろうか…。
「白鷺さんって…いつもああなのか?食事にでもと強引に誘われたんだが」
バッグミラー越しに見えるエリカの表情が、段々険しくなっていく。
誤解を解こうとした俺の行動は、完全に裏目に出てしまっていた。
「いや、自分が白鷺さんに狙われてるの、わかってるよね?」