静かに閉まっていくエレベーターの方を、俺は真っ直ぐに見据える。
…さっさと帰りたい。
俺はあからさまな溜息を吐きながら、俺のコートの裾を掴んでいる白鷺さんに、冷たい視線を向けていた。
「なに?」
「えっとあの…よろしければ、一緒に食事とか行きません?」
計算し尽くされた可愛らしい表情を浮かべた彼女が、俺の腕を引き寄せる。
普通の男ならイチコロで落とせるかもしれないが、今の俺にとっては不愉快なものでしかなかった。
「俺、この後大事な用事がありますので」
笑顔を引きつらせながら、いつもの仮面を顔に貼り付ける。
しつこい奴には本性を出す時もあるが、出来れば面倒事は極力避けたい。
それは店の雰囲気も悪くしたくないという、俺の配慮でもある。
「あの。白鷺さん…だから離してくれる?」
涙目にも見えるが、おそらく嘘泣きだろう。
色仕掛けでダメなら泣き落しに走るなんて、あまりにも安直すぎる。
「…橘マネージャー、あんな、バツイチの人に構うのはやめてください…!」
「…は…?」
「私知ってるんです。橘マネージャーが、よく店長を車に乗せて帰ってるとこ。…もし、手軽に遊べる相手を探してるなら…なにもあの人じゃなくて、私と…」