その滑らかな感触に懐かしさを覚え、もう目を離さずにはいられない。
昔は一晩中腕の中に抱きながら、当たり前のように触れていたものがそこにある。
エリカの無防備な姿を見て、全身の血液がどんどん熱くなっていくのを感じた。
(ダメだ…)
これ以上、触れてはいけない。
…でも。
頭ではわかっているのに、抑えが効かない。
指先でこの白い肌に触れてしまったら、また以前のようにエリカの全てを奪ってしまうだろう。
普段冗談のように触れている時ですら、俺はギリギリ理性を保っている状態なのだから。
エリカの悲しむ顔と愉悦に溺れる姿が、俺の頭の中を交互に行き交っていく。
身体を奪うことで得られたものなんて、俺には何一つない。
唯一残ったのは、…どうしようもない後悔の念だけ。
だから昔と同じ過ちは、もう絶対に繰り返さない。
固く目を瞑りゆっくり息を吐いた俺は、髪に絡めていた指先を、やっとの思いで解放していた。
「結城。…いい加減起きろ」
「…ん…、…あれ…」
「寧々も疲れて寝室で寝てる。さっさと風呂入れてやれ。…俺はもう帰るからな」
「あ…うん。………じゃあ」
心が欲しいと、どうしてもっと早く気づかなかったのだろう。
昔の俺の行動を思い起こせば、本当に最低としか言い様がない。
聞こえたエリカの声が、どこか寂しさを含んでいるような感じがして、その都合のいい解釈を必死で頭から振り払う。
そのまま玄関を出るまで、俺は一度もエリカの方を振り返ることが出来なかった。