「機嫌直せよエリカ。ハンバーグやんねーぞ」
「…私は子供じゃないんで、ものに釣られたりしませんから」
家に帰ってきてから、エリカはずっと不機嫌モードだった。
どうやら寧々と仲良くしていることが、相当気に食わないらしい。
車内でも喋るのは俺と寧々だけで、エリカはずっと黙ったままバックミラー越しに鋭い視線だけを送ってきていた。
「じゃあ寧々、ママのハンバーグは俺と二人で食っちゃおうなー」
「…あっ…」
目の前からデミグラスソースのかかったハンバーグを撤去すれば、エリカは思わず焦ったような声をあげる。
「なに?」
「…別に」
エリカは本当に素直じゃない。
これじゃあ、寧々とどっちが子供か分からないくらいだ。
「おい寧々。俺とママ、どっちが好きなんだ?」
「ママ!」
悩むことなく答えた寧々に驚いて、エリカがはっと顔を上げている。
ほら見ろ。俺なんて…まだまだ適うわけがない。
エリカが寧々と一緒に過ごした時間の濃さも長さも、俺とはまるで違うんだから。
「…だそうだ。良かったな?」
「ま、まあね。当たり前でしょ。そんなの聞くまでもないし」