「こんなかっこいい旦那さんがいたなんて!エリカ~あんたやるじゃん!」
「…はは」
彼女に背中を叩かれながら、エリカが力ない笑顔を浮かべている。
得意げに俺の方を振り返った寧々は、ニンマリと口の端を持ち上げていた。
(もしかして…この前の…)
俺は確かに寧々のパパが来るまで、そばにいると約束した。
だからなのか?
だから…寧々にとって俺は、ちゃんとパパの代わりになってるのか?
胸に温かいものが広がっていく。
エリカには悪いが、寧々が先生の前でパパだと頷いてくれたことが、堪らなく嬉しかった。
「心配してたんですよ。エリカ、いつも夜遅くまで寧々ちゃん預けて働いてるから…」
「すみません。俺も、ようやく出張から戻ったばかりで…」
「まぁ、そうでしたか!これで寧々ちゃんも安心ですね」
飄々と嘘をついている俺のことを、エリカがじっと凝視してくる。
悪いけど、誤解されていたほうが好都合だ。
これでエリカの代わりに、寧々を迎えに行ったり出来るのだから。
「エリカ、また今度ご飯誘うから。今日は旦那さんとゆっくり過ごしてね」
立ち去って行く彼女に軽く会釈しながら、呆然としているエリカに目を向ける。
「寧々、一体どういうことなの…?」
「おいこんなに小さい子責めたりするなよ。寧々は俺のこと、パパだと思ってるんだもんな?」
「うん!」
「どうすんの?由子にあんな誤解与えて…」
「あんまり深く考えるなよ。…なるようにしかならないんだから」
「もう、信じられない…っ!」
俺の思惑になんて、エリカは全く気づいていない。
悔しさを全開に含んだエリカの叫び声は、いつまでも広い通路に響き渡っていた。