「あ~……えっと」

頬を染めながらこっそり話しかけてくる女性に対して、エリカが面倒くさそうな表情を浮かべている。

でも次の瞬間には、まるで“なんで来たのよ”と言わんばかりの辛辣な視線を、俺に投げかけていた。

「しょうちゃん、ごはんはー」

「ああ。ハンバーグでいいか?」

「やったぁ~」

こちらに近寄ってきた寧々が、小さな手を伸ばして俺と手を繋ぎ、無邪気な笑顔を向けてくる。

「…えっ、もしかして…エリカの旦那さん!?」

今の会話からそう判断したのか、彼女は爛々と目を輝かせながら、エリカに詰め寄っていた。

「……」

「ねぇ、何で黙ってるのよ~。ねぇ寧々ちゃん、パパなの?」

「うん!」

「……!」

自信満々に頷いた寧々に俺も目を見開いたが、一番驚いたのは他ならぬエリカ自身であろう。

エリカは顔を強ばらせたかと思うと、考え込むようにして額を手で押さえていた。

「あの、初めまして!私エリカの高校の同級生で、寧々ちゃんの通ってる保育所で保育士をしております、佐伯由子と申します」

「…あ、どうも…いつも寧々が…お世話になってます」

こういう場合って、話合わせたほうがいいんだよな…?

エリカだって、旦那でもない男を平気で家に連れ込んでるなんて、思われたくないだろう。