「美月お先ー」
「あれ、エリカにしては珍しく帰りが早いね」
「監視がうざいから」
バックヤードで相沢とすれ違ったエリカは、俺の目の前にも関わらずそんな不満を口にしている。
「…なるほど」
妙に納得した様子の相沢は、エリカの後ろにいる俺に、妙な視線を投げかけていた。
どうやら相沢は、俺がエリカに早く上がってほしくてプレッシャーをかけていることに気づいているらしい。
「毎日お疲れさまです。橘マネージャー」
「ああ」
その視線に全てを見透かされるような気分になる。
相沢の洞察力にいたたまれない気持ちになっていると、エリカはため息をつきながらバックヤードから出て行ってしまった。
「相沢、今日は俺が飯作るから」
「必要ないから私は来るなと」
「いや、違う…その」
「わかってます。今日はもともとデートなので、エリカの家に行く予定はありませんから。ごゆっくり」
「そう…か。じゃあ、お先」
俺が隣の家に出入りしていることは、相沢にも周知の事実になっている。
相沢は色々邪推しているようだが、食事の世話係が相沢から俺に変わっただけで、エリカとは恐ろしいくらい何も進展がなかった。