「……」

一瞬言葉を失って、息を飲み込んだ。

結城は襟ぐりが深いUネックのカットソーを着ているせいか、デコルテの辺りまで肌が露出している。

こんな時に平泉のオヤジの言葉を思い出してしまう。

俺は小さく舌打ちして、その柔らかそうな胸元から目を逸していた。

これじゃああのオヤジと同じ思考になってしまう。

…何考えてんだ、こいつはついこの間まで10代だったガキなのに。

馬鹿馬鹿しい考えを振り払って、再度結城に目を向ける。

ふざけんな。

これ以上、自分を見失ってたまるか。

ゆっくりと伸ばした手で、俺は結城の頬を思いっきりつねってやった。

「い、ったぁ!」

「何居眠りしてるんだ」

「……げっ、橘マネージャー!なんでここに…」

俺の存在に気づいた結城が、いかにも鬱陶しそうな声をあげる。

「お前は…ほんと相変わらずだな」

「ね、寝てないし。目瞑ってただけ」

「さっきから何度呼んでも反応なかったぞ」

「だって…音楽聞いてたから」

「嘘つく奴にはこれやらないからな」

必死で弁明してくる結城の前に、有名なパティスリーの店名が入った手提げ袋をぶら下げる。

「…え?」

「お前さっき、マカロン食うって俺に返信したよな」

「あ、あれ…橘マネージャーだったの!?」