『マカロン食うか』

今しがた送ったメッセージが、すぐに既読表示へと変わる。

『食べる』

「…即レスかよ」

これまでなんの音沙汰も無かったのに、食い物で釣られるとは現金な奴だ。

俺は溜息を漏らしつつ、軽い足取りでショップの自動ドアを潜っていた。

「あら、橘マネージャー。珍しいですね。急にいらっしゃるなんて」

「…ああ、競合店の調査帰りだからついでに寄らせてもらった」

「さすが仕事熱心ですね~」

顔馴染みの店長と話しながら、俺は広い店内に視線を走らせる。

さっきすぐに連絡が取れたんだから、結城はちょうど休憩中なのだろう。

ちょうどお客様に呼ばれた店長と別れて、俺は店内奥のスタッフルームに足を向けていた。

「中に結城いるか?」

「た、橘マネージャー!結城ですか?いますよっ」

ちょうど出てきた店のスタッフが、赤い顔をしながら返事をする。

他に何人かの視線も感じたけれど、俺は迷わず中に足を踏み入れていた。

「…おい」

休憩室には、今はちょうど結城の姿しか見当たらない。

「結城」

久しぶりに見たその姿に、心臓がざわめく。

パイプ椅子に深く腰掛けた彼女は、スマホに繋いだイヤホンを耳に当てながら、白い肌の上に長いまつげを伏せていた。