もぞもぞ、っと日向が体を動かしたと思うと、日向のリュックの肩紐が左だけずり落ちる。
だらっとしたその姿は、自由奔放な猫のようだ。

「日向、リュック。」

「…う?」

指さして注意したのも関わらず、何のことかわからないというように首を傾げる。
仕方なく、私より幾分高い身長の肩まで背伸びをして、肩紐をひっかける。

「全く…いつかリュック落っことすよ?」

「…ん、気を付ける。」

鼻の頭を赤くして、日向は頷いた。
本当に、まぁ。
放っておけなくなる子だなと、自分自身にため息をつく。

きっとこんなだから、彼氏なんてできないのだろうなと思いながら。

「…美桜?」

「なんでもないー!」

なんだかんだと目ざとい彼に気づかれないようにそっぽを向く。
そうしてそっぽを向いた先にもカップルがいて、ぐんにゃりと眉を寄せた。

「美桜は…まだ、颯太が、好き?」

ぶっ、と女子にあるまじき、口から変な息を吐くという反応をしてしまう。
まさか、日向からそんな話題を振ってくるとは。
カップルをしかめっ面で見ていたからだろうか。

「な訳ないでしょ。こっちから振ったんだし。」

颯太、というのは、同じ学校で一つ先輩の、黒崎颯太(くろさき そうた)のことだ。
いわゆるDQNで、校則違反ばかりしているような奴だ。
ちゃらちゃらとしていて、正直興味の欠片もなかったけれど。
友人である桐谷美鈴(きりや みれい)に、『付き合っちゃいなよ!』と言われて告白をOKしたのだけれど。
案の定、人として劣っていたようで。
この私がいるに関わらず、浮気をしていました。

ですのでまぁ、きっちりと制裁を加えて、仕返しをして。
金輪際二度と私と私の友人に関わらないという制約をしました。
その制裁について概要を述べるのなら…
まず私と黒崎が付き合っていた証拠をいくつかと、浮気相手の調査、証拠品を差し押さえた。
それを持って、黒崎とその彼女の元に乱入して、数々の証拠品を突き付けました。
最初は戸惑っていた奴に、それらもろとも顔面掌打と腹部に回し蹴りをして、最後に金的攻撃。
ま、そのあとに制約をさせたんですけど。

噂では結局その浮気相手と交際を続けているんだとか。
あの調査のために好きでもない男と1か月一緒にいたのは大変だったなぁ。

「…ん、そっか。」

「日向にも心配かけちゃったもんね、ごめんね。」

私に顔面掌打と回し蹴りを教えてくれたのは、格闘技をしている彼なんですけどね。

「俺は、平気。」

「相変わらず、日向は優しいよねぇ。」

ふふ、と笑うと、日向は困ったように視線をそらす。
耳が、赤い。
照れているときは、大体耳が赤くなることを知っていたから、あえて私も視線をそらす。

傍から見ると、カップルに見えるのだろうか。
こんな、私でも。