編集長は、しばらく悩ましげな顔をしながら、瞼を閉じて懐かしむように語り始めた。



「初めて会ったとき、あんたは感情を伝えるのが苦手な子なんだと思った」



「…………」



「だけど、あんたの書いた物語は違う。ストレートに想いを訴えかけてくる。心を突き動かすような登場人物の言葉に感動したわ」



そんな風に、編集長は感じてくれていたんだ……。


初めて聞くことばかりで、驚きを隠せない。



「主人公達の想いが生きてるのよ。だから、物語自体が生き生きして見えた。読んでて、こっちまで生きている意味を見出せるような……。あんまり上手く言えないけど……」



語彙力や表現力が豊富な編集長でも、言葉にできないことってあるんだ。


なんて、心の片隅で思う。




「その想いがこのまま色褪せてしまってほしくない。だから私がこの手で、輝かせ続けたいと思ったの」



編集長のおかげで、あの原稿に新たな息吹が吹き込まれた。


だからきっと、原稿だった私の物語は、本になり出版され、重版して、たくさんの人々に届いている。




〝彼方が好き〟。



物語の少女の言葉。



それは、今もずっと変わらずに、本となって読んでくれた人々の心の中で生き続けている。