「お疲れ様でした」



私はこちらに歩いてくる編集長に頭を下げる。



「お、上原。あんた、担当の作家の編集作業、終わったの?」



「はい。これから直ちに初稿をお送りしようと思っています」



「そう、なら早くしてあげなさい。それよりも、今年の大賞作品が決まったわよ。あんたがかつて活躍したあの大賞の」



ニコリと八重歯を見せながら、大人びた笑みを見せる編集長。


この人は、今も昔も変わらずに、こんな笑みを見せる。


クールで男気のあるかっこいい女性だ。




「や、やめてくださいよ。そんな大きな栄光を残したワケじゃないのに……」



「なに謙遜してるの。第10回新人小説大賞で大賞を受賞して、累計発行部数過去最多の歴史を残したあんたが」



……もう。いつも編集長は私と話すとき、その手の話題を出してくる。



まぁ、無理もないだろう。



かつて、私がまだ18歳だった頃に書いたあの初めての物語を出版するときに担当編集してくれたのは、まぎれもなく今目の前にいる編集長なのだから。