「もう泣き止んだ?」



彼方は心配そうに、私の顔を覗き込んで来た。



「うっ……もう大丈夫、です」



「よかった。目腫れてなくて」




本当に心配してるみたいで、なんだか大切にされてるような錯覚に陥る。



彼方の整った顔に見られると、やっぱりどこか恥ずかしい。



心がくすぐったい気持ちになった。





「あっ」



そこで私はふと思い出す。



「そう言えばさっき、沙奈が帰って行ったんだけど……」



そのとき、目が赤かった気がした。



沙奈も私と同じように、泣いたのかなって思ったんだけど……。



「沙奈となにかあったの?」



そう聞くと、彼方は「あー」と思い出したようにつぶやく。



「さっき、沙奈にも言っちゃったんだよ。
未歩達みたいに、俺のとこくる暇あるなら、バイトがんばってって。
そしたら帰っちゃった」




「…………」




本当にそれだけ?



沙奈はそれだけのことで、泣いたの?