「彼方」
病室に入って声をかけると、彼方はびっくりたように目を見開いていた。
「未歩……来たの?」
「うん」
そんな驚かなくてもって思うけど、昨日あんなこと言ったから当然か。
「来なくていいって言ったのに」
そして、困ったように笑ってみせる。
「違うの。今日はほら、家にたくさんりんごがあったから、お母さんに持ってけって言われて」
そんな口実を使って、大量のりんごが入ってるスーパー袋を見せた。
これで、ここに来た理由はちゃんとあることになるよね?
ここまでしてまで、私は彼方に会いに来た。
だってね。航がさみしそうな顔してたんだよ。
私の幼なじみが、彼方は自分を必要としてないみたいでさみしいって、悲しそうな顔で言うんだよ。
違うよね?彼方は航のこと、嫌ってない。そうだよね?
ただ単に、事故に遭わせた私のことを恨んでるだけ……。
そうでしょ?