彼方の病室の近くまできて、大量のりんごが入ってるスーパー袋が重くてそろそろ腕が限界と思っていると、前方から見慣れた人物がやってくる。
沙奈だ。
そうだ。沙奈が、今日は彼方のところに行くって言ってたの忘れてた。
「沙奈!……?」
様子がおかしいと思ったのは、声をかけたあとだった。
うつむいたまま走っていた沙奈は、私が声をかけるとともに顔をあげた。
私を見るなり驚いた顔をして、立ち止まる。
「あれ、未歩?来たの?」
「う、うん。りんごだけ渡しに……」
「そっか」
沙奈……、なんか目が赤い気がする。
もしかして、泣いた?
「もう帰るの?」
「うん。ごめんね」
それだけ言うと、目もとをゆるめて笑った沙奈は、また歩き出して行ってしまった。