そう。だからこそ……。
「だからこそ航に、自分の怪我を気にしてほしくなかったんだと思う。
それよりも、自分の分も、航に陸上を頑張ってもらいたいんだと思う」
これは勝手な憶測だけど、でも、彼方の優しさに触れてきた私にはわかる。
彼方は、自分以外の誰かの〝ため〟に、優しいんだ。
「未歩……」
航は驚いた表情で、私の顔を見上げていた。
「航は、航らしく走ってよ……。
私、昔から航の走ってる姿見るの好きなんだよね。それはきっと、彼方も同じだと思う」
自然に出ていた私の言葉に、航はやっと、いつもの航らしく笑った。
そして何か決心したかのように、膝に手を当て立ち上がる。
「そうだな。あいつのためにも、走るか」
航らしく、前を見つめて。
「次の大会でさ、自己ベストだしてよ!」
「ははっ、しゃーないな。幼なじみの頼みだし、わかったよ。約束してやる」
私たちはお互いに笑いあい、手を拳にして当てあった。