カバンを持った航と私は、玄関を出て、陸上部の部室の前まで来ていた。



そして、部室の前で腰を下ろす航。そんな様子を見て、私はすぐ横で、部室の壁にもたれかかった。



すると航が口を開く。



「俺さ。彼方に言われたんだよな。わざわざ俺の見舞いになんてこなくていいって」



「えっ……?」



「ちょうどお前と入れ違いに見舞いに行った日。土曜日」




あぁ、あのときか……と思いつつ、私は航に言う。



「私も……おんなじこと言われた」



すると航は「やっぱりな……」とつぶやき、聞こえないくらい小さなため息をはく。



「なんかさ……。彼方は自分のために、俺たちの時間が削られるのが嫌みたいなんだよな……」



「どういうこと?」



「あいつ、俺に言うんだ。航はこんなとこ来る暇あるなら、部活をがんばってくれって。次の陸上の大会で、俺の分も頑張ってくれって、頼まれたんだよ……」