本を読みふけっているとチャイムが鳴った。集中し過ぎていたのか、自分の部屋のチャイムにも関わらず、すごく遠くで鳴っている様に勘違いし、反応するのが遅くなってしまった。2度目のチャイムでハッとした。


ここの部屋だったと気付いてからは、本を投げやるように閉じて、玄関までバタバタと慌しく向かった。待ちに待った時間だったのに、いつの間にか過ぎてしまっていたらしい。


――ガチャ


玄関の扉を開けると、いつもと少し違う雰囲気の麻里さんが立っていた。いつもとは違うというのは、もちろんいい意味で。デートを意識してくれているんだと分かる、メイクに服装。初めて見る麻里さんに心臓が一度大きく跳ねる。


「……すみません、おまたせして」


待たせてしまったことに対して謝ってもいなかったことに気付いた。


「忘れているのかと思ったよ。髪も乱れてる」


クスクスと笑いながら手を伸ばし、俺の頭を撫でるように髪を整えてくれた。急に近づいた距離に、さっきまでとは違う焦りを感じた。


デートはまだまだこれからだというのに、この調子じゃ……今日一日、俺の心臓は持ちこたえてくれるだろうか。心配になってくる。


「すぐ準備します」


テーブルの上に置いたままにしてしまっているスマホとバッグを取りに一度部屋の中へと戻った。麻里さんには玄関で待ってもらっている。


バタバタと動く俺を楽しそうに眺めているから、待たされている事に怒ってはいないみたいで、そこは安心した。けれど、もっと余裕な面を見せたかったというのが本音だ。


準備が出来き、今度こそ出かけることになった。


今日は俺の車で出かけることになっている。麻里さんは自分が運転してもいいよって言ってくれたけれど、初めてのデートだという事もあり、俺は譲らなかった。


ちっぽけだとしても、俺にだってプライドという物が存在する。


俺が運転する車の助手席で、麻里さんはニコニコと話をしてくれた。誰かと出かけること自体が久しぶりで、楽しみにしていたと。


俺と出かけるのが楽しみだった、そう言って欲しかった気持ちはあるけれど、麻里さんが楽しそうだから……いいか。


隣に座る彼女の存在が気になるところだけれど、真っ直ぐ前を向き運転に集中することにした。