「麻里さん、抱きしめてもいいですか?」


「いちいち聞かないでよ、恥ずかしいから」


……触れたい。そう思ったら、彼女に聞いていた。そして返ってきたのは言葉通りに恥ずかしそうな仕草。


はっきりと言ってはくれなかったけれど、彼女の反応からするに、了承してくれたのだろう。


やばい、可愛い。今まではあくまで“年上の女性”として接していたけれど、今目の前にいるのはただただ愛おしい女性。


大事にしなくちゃいけない。そんな想いが頭を過ぎった。


腕を伸ばし、左手で腰を引き寄せながら、ぎゅっと抱きしめた。衝動的に抱きしめたさっきとは違い、今度は麻里さんもすぐに俺の背中に手を回して、抱きしめ返してくれている。


「麻里さん、好きです」


「私も……好き」


思っていたことを口にしてしまうと、照れる麻里さんから返ってきた“好き”の言葉。俺の心を鷲づかみにして離さない。こちらが照れてしまいそうになる。


腕の中にいる彼女を覗き込もうとすると、上を向く麻里さんと目が合った。


「……」

「……」


ふと、彼女の赤いふっくらとした唇が目についた。魅力的なそれに、そのまま吸い寄せられていく。
ちゅっ、と音をたてながら、キスをした。


そっと触れるだけのキスなのに、心はほくほくと温かい。


これが“幸せ”という感情なのだろう。


受け入れてくれている麻里さんに、本当に彼女になってくれたんだなって、実感が湧いた。


このまま時が止まってほしい。そんな馬鹿なことを考えてしまった。