今日で麻里さんの怪我から1週間、彼女からの連絡によると仕事復帰は明日かららしい。良い事だけれど、それは棚ボタ的に得た彼女との時間が終わる事を意味しているから、心からは喜べていない自分がいる。


仕事復帰を喜べないなんて、職業柄も人としてもダメだとは分かっている。だって、普段患者さんに対して口にしている事と、今の気持ちは矛盾しているものだから。


そんな自分から抜け出すためにも、今日想いを伝えようと決めた。


いつもならスーパーやコンビニに寄り道するところだけれど、それは無しで麻里さんの待つ部屋へと急いだ。少しでも早く会いたいし、少しでも長く彼女と過ごしたい。


駐車場に車を停め、バタバタと一度自室へと戻った。仕事用の荷物からスマホと家のカギだけを手に取ると、カバンは玄関に投げ入れ、すぐさま玄関の扉を閉めた。


そして、目指すは……隣の麻里さんの部屋。麻里さんの部屋の扉の前に立ち、改めて2人の部屋の距離を確認する。壁一枚に阻まれただけで、こんなにも近くに居たというのに、ずっと会えていなかったのが今では不思議なくらいだ。


「……よし、行くぞ、俺」


自分に言い聞かせるように、自分自身で背中を押すように一度深呼吸をして呟いた。




――ピンポーン


緊張から小刻みに震える指先で、そっとチャイムを鳴らす。すると、待ち構えてくれていたんだろう、すぐにパタパタと中から足音が聞こえてくる。


……本当だ。本当に麻里さんは完治したみたいだ。引きずるように、そしてゆっくりと歩いていた彼女の足音は、ここ数日の間にとても軽やかなものになっていた。


音だけで、感じ取ってしまう自分が嫌になった。麻里さんの怪我に、自分の仕事に頼るだけの関係の終わりを嫌でも突きつけられる。


――ガチャ

「はーい。待ってたよ、どうぞ」


返事と扉が開くのは同時だった。にっこりと優しく笑ってくれる麻里さんが目の前に立ち、すぐに家の中へと招き入れてくれた。


麻里さんはどんな気持ちで俺を簡単に入れてくれるのだろうか、とふと考えた。俺だって一応男なのに、女性の1人暮らしの家に気軽にあげるのはどうかと思う。今まさにあがりこんでいる俺が言うのもなんだけど。


……やめた、これ以上1人で考えて悩むのは。マイナスな事ばかり考えてしまって、決意が揺らいでしまいそうになってしまう。


深くは考えないことにして、先を歩く麻里さんに続いた。