「はい、どうぞ……って、邪魔ですよね」


本を並べて眺めているところに、料理が出来上がったらしい彼が現れた。隅に寄せてあったものを私が引き寄せたんだけどな。お皿を持ったまま、慌てて腕で本を押しやる姿が可笑しかった。


「ごめんね、気になって勝手にパラパラ見てた」


「全然構いませんけど、こんなの見ても面白くないでしょう」


無理やりに作ったスペースに、パスタを並べながら彼が言う。


「難しくて、まず読めない文字がたくさんだったかな。すごいね」


「専門書だからですね。俺も時々分からない単語出てきて、調べながら読むときもありますよ」


本当、すごい。そこまでして本を読むって、好きなことじゃないと出来ないと思う。


「……仕事、好き?」


不意に頭に浮かんだ言葉を、何も考えないで発していた。今、この流れで、この質問、私の頭の中では繋がっているけど、彼には伝わらなかったかもしれない。


「仕事ですか?人間関係は正直面倒だったりしますけど、仕事自体は好きですよ?……どうしてですか?」


私の質問に首を傾げながらも、律儀に拓斗君は答えてくれる。


「いや、なんとなくそう思っただけ。さっ折角作ってくれたパスタが冷めちゃうし、食べようよ」


「いまいち分からないですけど……そうですね、食べましょうか」


いただきます、と手を合わせて、まだ暖かいパスタに手を伸ばした。


……折角、拓斗君が作ってくれたもの。味わって、おいしく食べないと勿体ない気がする。食べる事に集中することにした。


そうでないと、この2人きりだという状況を変に意識してしまいそう。


黙々と食べながら、チラリと正面に座る拓斗君を盗み見ると、彼も食べる事に集中しているようで、ホッとすると同時に私だけが緊張しているのかと寂しい気持ちがじわじわと大きくなる。