昨日と同じように私は助手席に座り、拓斗君の運転する車で近所のスーパーに向かった。


スーパーでは数日分の買出しをした。職場に車を取りに行くまでは1人では買い物にすら満足にいけない。


ここでも拓斗君は紳士ぶりを発揮。ニコニコとあれはこれはと言いながら、ぴったりと私の傍から離れない。カゴも持ってくれて、松葉杖で歩くだけでいつもと違うからか疲れやすい私にはありがたい以外の言葉は見つからない。


そして、話の流れで今日は私が拓斗君の家に招待されることになった。


彼が遅めの昼ごはんを作ってくれるらしい。「俺でも作れる料理はあるんですよ」と楽しそうに買い物をされたら、断れるわけがない。ただ、迷惑料だということで材料費を私が出すことは譲歩しなかった。


必要なものだけ買い込むと、再び拓斗君の運転で自宅である光ヶ峰ハイツへとすぐに戻った。私も家には帰らずに、彼の部屋、私の隣の201号室に誘われるままに訪問した。






「――どうぞ。あんまり片付けられていないですけど」


申し訳なさそうに笑いながら、彼は扉を開けたまま私に中に入るように促してくる。いざ入ろうとすると、躊躇いの気持ちが生まれる。


こんなに彼に近づいてもいいんだろうか。後には引けないほどに彼にハマッてしまうのではないか。そう思うと、一歩がすごく重い。


けれどここまで来た以上、やっぱり止めるとも簡単に言えるはずがない。空気を壊さないために行くんだよ、自分から行きたい!と言って行くわけじゃないんだ。そう言い聞かせながら、自分の気持ちに予防線を張った。


「……おじゃまします」


誘われるままに、彼の家へと足を踏み入れた。


同じアパートの隣の部屋だから、間取りは変わらないはずだけど、やっぱり男の人の部屋。暖色系の家具で揃えてある私とは違って、ここは白、黒あとはブラウン系と落ち着いた色で揃えてある。散らかってはいないけど、お世辞にも綺麗とは言えない。物に溢れている感じだ。


“片付いていない”という言葉がまさにぴったり過ぎて、少し可笑しくなった。


「すみません……もうちょっと片付けとけばよかった」


私の視線に気付いたらしく、私を追い越してバタバタと部屋の中に入っていった。そして、テーブルの上に散らばっていた本を端の方に段々に積み上げている。


そんなに慌てなくてもと笑ってしまった。どうしてだろう、拓斗君を見ていると心がすごく和む。


クスクスと漏れる笑いを堪えきれないまま、彼に続いて私も部屋の奥へと入る。彼を追うスピードはゆっくりのままだけど、今日は随分と歩いたからか、松葉杖を使って歩くことにも慣れてきた気がする。