温めるだけだからと、手伝うことを拒否されてから約十分。右足に体重をかけているんだろう、向きを変えながらもほとんど大きく場所を移ることなく手際よくキッチンで作業をしていた。あまり料理をしない俺でも分かる、彼女はすごく手慣れている。


あっ!という間に、出来上がったらしい。彼女に料理を運んでくれと頼まれた。麻里さんの手料理が食べられるのなら、そんなのお安い御用と、指示を仰ぎながらセッティングの手伝いをした。


「……今日はありがとう、助かった」


「こちらこそ、ご馳走になります」


そして、今はこうして彼女を向かい合わせになって座り、目の前のテーブルには美味しそうな料理が並んでいる。


感想を言わなきゃと思ったけれど、しっかり働いて起こる激しい空腹と、見た目通りに美味しい料理に、しゃべることを忘れ黙々と食べ続けた。


……しまった。ぺろりと食べてしまってから気が付いた。気を悪くしたかもしれないと恐る恐る彼女の顔色を覗った。


目の前には予想しなかった顔をしている彼女がいた。嬉しそうに、笑っている。


「口にあったみたいでよかった。作り置きばかりでごめんね、今度改めてお礼はするから」


「いえいえ、俺の方こそご飯まで頂いちゃって。すごく美味しかったです」


くすくすと楽しそうに笑っていて、俺も自然と笑顔になる。2人で顔を合わせて笑いあった。なんだか精神的にすごく落ち着く。


それから俺の仕事のことも話をした。こうやって当たり障りのない世間話以外の話をすることは、初めてかもしれない。また一歩2人の距離が縮まったような感じがして、それがまた俺には嬉しい。そして、明日は食料品を買い込むために、買い物に行く約束もした。


話は盛り上がり、気づけば随分と遅い時間になってしまっていた。自由には動けない麻里さんには今度はゆっくりしてもらいたくて、食事の後片付けは俺がすることにした。そこは俺も譲らなかった。