――
―――
「ありがとうございました。またのご来店お待ちしています」
やっと最後のお客が帰っていった。これで一段落。
いざ仕事場に入ると気持ちも引き締まり、拓斗君のことは頭から消えていた。こんな事を考えている時点で、綺麗さっぱりと消えたわけではないけれど。仕事の邪魔にはならない程度だし構わないと思う。
最近は彼に会った日はこんな調子だ。私、どうしちゃったんだろう。確実に日に日に惹かれていている気がする。
「瀧本さん、私片付けに入るので、レジ閉めお願いします」
「うん、分かった。こっち終わったら手伝うから」
バイト生に声を掛けられて、慌てて余計な思考を頭から振り払った。仕事に支障をきたしてしまったら、絶対にだめ。そんな事をしたら社会人として失格だからと言い聞かせ、私に任されているレジ閉めと売上金の保管へと取り掛かった。
集中していないと計算をやり直したりと余計に時間がかかると分かっているから、しっかりと集中し仕事を進めた。いつもより集中できていたのか、とてもスムーズに終わってしまったため、普段よりも早く片付けの手伝いへと移ることが出来た。
「瀧本さん……またイケメン来ませんかね?」
「……は?イケメン?」
バイトの中田さんの唐突な発言に変な声を出してしまった。だって、なぜ急にそんな話しが出てきたのか分からない。だってたった今まで会話という会話なく、黙々と手を動かしていたのに。若い子の思考回路は本当に理解し難い。
「少し前に久しぶりにイケメンの来店があったから、また来ないかなって思って。だってバイトって出会いの場でもあるじゃないですか、それなのに……」
その先の彼女の言葉は容易に想像できて、苦笑を浮かべた。その意見はよく分かる。私もよく感じていたことだから。
「それなのに、全く出会いがない!でしょ?」
「……なんで私の言いたいこと分かるんですか?ひょっとして瀧本さんエスパーか何かですか?」
エスパーって、どうやったらそんな発想になるのか。思いがけない言葉に少し噴出してしまった。ちょっとバカっぽいけど、こういう発言をしちゃう辺りがみんなに可愛がられるんだよね。若くて見た目も中身も可愛くて、私には持ち合わせていない要素が沢山で羨ましいくらいだ。
「みんな一度は通る道よ。今までも色んな子が同じことを言っていたわよ」
私も含めてね、って言葉は告げずに飲み込んだ。同じようにここでは出会いがない、出会いがないって言っていたから。
「でも仕方ないのよね。だってこの店は女性客向けなんだもの。スタッフもほとんど女性だし、ここでは恋愛的な意味ではチャンスがまず少ないのよ」
「ですよね……だったら、尚更この前のイケメンたちにまた来て欲しいです。あれこそ数少ない出会いのチャンスでしたよね、きっと」