「私は202号室。拓斗君の隣なんだよね。長く隣に住んでるはずなのに、一向に出会う気配がないから、201号の住民は私にだけ見えないのかな、とかバカなこと考えてた」


私の答えに、なるほどと口では言いながらも、どこか納得いかない様子だった。そりゃそうだよね、私のバカな発想を理解できるはずがない。


「……隣なんですか!?」


やっと隣って所に対する反応が返ってきた。


「そうそう、隣。だから最後まで帰りは一緒になるね」


ここまで偶然が重なると奇跡的としか言えない気がする。すごいなと思い、笑みを浮かべながら彼と目を合わせると、一瞬合った目をすぐに逸らされてしまった。


そんな彼の行動に、ズキっと胸が痛んだ。いつのまにか近づいていた距離が、一気に離れてしまったような寂しさを覚えた。彼から突き放された気がした。


けれど、そんな気持ちを顔に出してしまったら、彼はもっと迷惑すると思う。


久しぶりすぎる出会いに少し浮かれていたのかも知れない。そうだよね、拓斗君いかにもモテそうな容姿をしているし、ズカズカと懐に踏み込むようなマネをして迷惑だったかもしれない。


これ以上迷惑を掛けないためにも、この煩わしい気持ちを彼に悟られない様に、無理に笑顔を作ることにした。一定の距離はしっかり保って、得意の営業スマイルで。


大丈夫だって、今ならまだ傷付かない。今日きりの出会いだったんだから。さあ麻里、にっこり笑って彼とバイバイするのよ。2年間全く見かけもしなかった人よ、これからもそんなに会うことはないって。たまたま顔を合わせたときは会釈するって位の関係になればいいだけのことだから。


そう言い聞かせながら、彼と2人並んで2階の自室へと向かった。






……早く帰って、1人きりになりたい。