何だソレ? 選手のラケットが無くなれば、代わりに自分が選手に選ばれる? そんな馬鹿な。
だって、怪我してるんじゃないの? テニスが出来る状態なの?


「その先輩、怪我してるんじゃなかったの? テニス出来るの?」


どうやらハルも私と同じ疑問を感じたらしく、舞子に質問する。
舞子は慌てて訂正した。


「違うの、その先輩の怪我は、とうの昔に治ってるの。ただリハビリ後に、怪我の前と同じような状態でテニス出来ないというか、本調子が出ないというか…、そんな感じみたいで。その状態に対するイライラも、ラケットを盗む原因になったみたい」


そんなのはその先輩の問題で、舞子や他の後輩達は何も関係無いじゃない。
自分の勝手なイライラや、逆恨みに巻き込まないで欲しいよね。


「私、先輩がそんな人だとは思ってなかったよ……。入部当初から優しくしてくれて、凄く尊敬してたのに」


その先輩をよほど慕っていたんだろう、舞子はかなり落ち込んでるみたいだ。
「裏では何を考えて、何を言ってるか分かんないのに」――誰が言ったか分かんないけど、そんな言葉が聞こえた気がした。あの言葉は、誰が言ってたんだっけ?





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