「アレ・・・ン・・・」
ふいに手を引っ張られ、びくりと方がはねた。
「パーシー・・・」
それは、同じテニス部のパーシー・セントルシアだった。
ブラスバンド部のシャロンと交際していた。
パーシーは、肩に銃弾を受け、血まみれで横たわっている。
「はは・・・、寝坊したばっかりに、校門のぎりぎり内側で撃たれて・・・このざまだ・・・情けねえなあ・・・」
パーシーは、うっすらと自嘲するように微笑んだ。
「シャロンにさ・・・」
「うん?」
「ごめん、って伝えて・・・」
思わず言葉を失った。
俺に・・・伝えろと・・・
こいつは、どれだけの思いでこれを言っているのだろう。
それほど・・・もう覚悟を決めたのか?
「そんなの・・・自分で言うんだろ」
「もう、俺・・・ダメだ・・・」
パーシーは、真っ直ぐな眼差しで俺を見た。
「分かるんだよ、こういうのは」
「俺は先に逝くけど、ごめんって・・・」
「パーシー・・・」
「まだ・・・したいこと・・・あったのに・・・」
シャロン・・・と、恋人の名前を最後に呼んで、パーシーは息を引き取った。
一筋涙の流れたパーシーの頬に触れ、その雫をぬぐう。
ひどく静かな気持ちだった。
ただ、ひたひたと怒りが湧いていた。
この怒りの向かう先なんて、気にもとめなかった。
ただただ、悲しく、苦しく、許しがたかった。
まさか・・・
あの人が友人たちを殺したなんて・・・
そのときは夢にも思わなかった。
胃液がこみ上げていた。
血の匂い。
薬の匂い。
そして・・・死臭。
ロルフに支えられ、外に出ても、なかなか吐き気は収まらなかった。
ぐちゃぐちゃの顔のクラスメイト。
手のない後輩。
他にも、体中が真っ赤だったり、包帯でぐるぐる巻きにされていたり・・・
耐えられなかった。
「大丈夫か?気持ち悪いんなら、吐いていいぞ」
「ううん・・・平気・・・」
ロルフにしがみつきながら、私は吐き気が収まるのを待った。
怖い。
怖い。
怖い。
「怖いよぅ・・・」
「パトリシア・・・」
「怖いの・・・死にたくないの・・・」
まだやりたいことがたくさんある。
まだ生きたい。
もっと生きたい。
死にたくない。
生への渇望だけが、身体を巡っていた。