「俺たちも行こうぜ」
アレンが私の目を見て言った。
「けが人が大勢出てる。手当てに人がいるだろ」
「そうだな・・・」
ロルフも、立ち上がる。
「行かねぇと」
私たちはまだ知らなかった。
これから行く先に、あんな地獄が待っているなんて・・・
ナタリーが生きていた。
彼女の友人も、無事だった。
まずは、その事を神に感謝した。
知らず知らずのうちに、ナタリーと手を繋いでいた。
彼女の柔らかい手が、胸の痛みを和らげてくれる。
いつも繋いでいた、ふっくらとした手。
『ん・・・』
『・・・うん』
初めて繋いだときは、互いに緊張して口もきけなかった。
でも、時間を重ねていくにつれ、気負い無く、手を握れるようになった。
その甘やかで、平和な時間が・・・今はもう戻らないのか。
「生徒は体育館に行け!」
「早く集まれ!」
物理のオーギュスト・クレール先生と歴史のジョゼフ・フォスター先生が生徒を誘導している。
オーギュスト先生は、ロルフとパトリシアを見て、駆け寄ってきた。
担任するクラスの生徒を見て、そうせずにはいられなかったのだろう。
「ロルフ、パトリシア、大丈夫だったか!?」
「先生・・・」
「はい、何とか・・・」
2人は、憔悴しきった顔で答える。
精神状態はもう限界だった。
おそらくは、ナタリーも・・・
いや、俺もそうだ。
周りで人が死にすぎた。
悲鳴を聞きすぎた。
全てを忘れるには、受けた傷があまりにも深すぎた。
体育館に足を踏み入れる。
そのとたん、パトリシアの膝ががくりと折れた。
「おい!パトリシア!」
ロルフの呼びかけにも答えられず、ただ死んだような目で前を見るだけだ。
「・・・っ!」
横で、ナタリーも声にならない悲鳴を上げる。
すさまじい光景が目の前に広がっていた。
「助け・・・て・・・」
「かぁ・・・さ・・・ん」
「やだ・・・死にたくない・・・」
苦痛のうめき声を上げる級友たち。
「いやぁ・・・っ!逝かないで!」
「置いていくなよ・・・おい・・・!」
友の死に号泣する悲鳴。
そこは、まさに地獄だった。