「あれ・・・ん、アレン、・・・アレンッ!」
甘やかな声が響いた。
わずかにかすれ、震えた声。
その声は、校舎の入り口からだった。
ほっと安堵する。
逃げていたのだ。
助かっていたのだ。
「なた・・・ナタリー・・・!」
アレンも、声を震わせる。
クールを気取って、いつも感情を気取らせないアレンが、ナタリーのこととなると、ひどく感情的になる。
あの小柄な少女は、それほどの大きな存在なのだ。
たちまち駆け寄り、アレンがナタリーを抱きしめる。
火で焦げたらしい綺麗な金髪を、愛おしそうになでさすった。
「ナタリー・・・よかった、生きてた・・・」
「アレ・・・ン、アレン・・・」
ナタリーも、アレンにしがみついて泣きじゃくる。
「パトリシア・・・無事だったか・・・」
「えぇ・・・えぇ、あなたも・・・よかった・・・」
そばにいたパトリシアの手を握る。
しなやかで、ほっそりとした手。
誰かのぬくもりに触れて、気が緩んだ。
立っていられなくなって、座り込む。
「くそ・・・」
ぎり、と、唇をかむ。
「あいつら・・・」
3カ国の戦争だ。
アレンやパトリシアの国も、間違いなく俺の敵。
そして、この学び舎のある国すら・・・
愛しい人の祖国すら・・・
何を信じればいいか分からない。
誰を敵としてみるべきか分からない。
それでも・・・
生きてやる。
絶対に生きてやる。
俺は、唇をかみしめながら、そう誓った。
ひとまず攻撃はやんだらしい。
しかし、日常が戻ってきたわけではなかった。
硝煙の匂いが、あたりに立ちこめている。
「あの・・・アレン・・・」
呼吸を落ち着かせたアグネスが、ふいにアレンに言葉をかけた。
「他のみんなは・・・?」
他のみんな・・・
そうだ、他のみんなは・・・?
「アレン・・・?」
「分からない・・・」
アレンの目元がきつい。
いつも穏やかで優しい眼差しをしているアレンが、今、緑色の瞳を暗く曇らせている。
「それより・・・アグネス、ケガしてるだろ?」
「え・・・」
私は、はっとしてアグネスの足下を見た。
左足から、血が出ている。