君の生きた証~love in war~

どこかで、覚悟していた。

こんな光景を見ることになるのではないかと。











パトリシアの涙目。

傍らで泣きじゃくるアレン。

ぐったりと、力なくアレンの腕の中にいる血まみれのナタリー。




ひどく視界が真っ赤で・・・

血の色がぞっとするほど鮮やかで・・・



目を向けられないほどひどい状態のナタリーにすがるアレンは、日頃の強さなどかなぐり捨てていた。




何が起きたか、なんて。



分かるさ。

分かるさ、そのくらい。


俺バカだけど・・・



状況把握できるよ。





ただ、分からねえことがある。

どうして・・・




・・・逝っちまったんだ?

こんなの許されねえだろ。

こんなの残酷すぎるだろ。

最低だ。

めちゃくちゃだ。





こんなの・・・

こんなの・・・だめだ。





思っているのに、言葉にならない。




悲しいも苦しいも、身体から吹き飛んでいく。

涙だけが、ただ止まらない。


どうして。

どうして。




おいていけたんだよ・・・




俺たち、ずっと一緒だったよな。

ナタリーとアレンが惹かれあって、俺とパトリシアが付き合って・・・



それからずっと、ずっと、今まで一緒だったよなあ。




俺はお前が好きで。

でも、この想いは報われなくて。

それでも、そばにいてくれさえすればいいと願っていたのに。





なのに・・・

どうして、お前だけ先に逝っちまうんだよ・・・



なんでだよ・・・




なんで・・・

そんなひどいこと・・・


出来たんだよ・・・


次々と入ってくる異国の兵士たち。

誰もが血の通った人間だと、彼らは知っているのだろうか?




敵。

味方。

故郷。

異国。



そんなもので、そんなありきたりな単語でひとくくりに出来るほど、人間は小さくないと。



彼らは知っているのだろうか?





知っていて、なお銃は向けられるのだろうか?
誰も・・・

答えを知らない・・・




答えられない・・・









ただ・・・



分からないまま・・・



時間だけが過ぎていく・・・
ひどく静かに時間は過ぎていった。

まるで、痛みなんて感じていないかのようで、自分がひどく恨めしかった。


愛する人がこの世を去っても、日は昇る。

身体は空腹を訴える。



そういう自分を嫌いだと思った。












援軍は、いたって温厚に俺たち留学生を扱った。


3カ国間で取り決められたしばらくの休戦の間に、荷物をまとめるように指示し、俺たちはそれに従った。



加えて、彼らは、死んだ生徒の家族たちに手紙を書くよう、俺たちに言った。


死の通達は出来るが、最後の様子や遺した言葉を伝えることは出来ないから、と。


それぞれの墓標と、住所とを照らし合わせながら、俺たちは遺族に手紙を書いた。

俺も、一人ずつ手紙を書いた。


テニス部の仲間や、クラスメイト。

周りで命を落とした多くの仲間のために。




そんな中で、戦死したオリバーの家族へ手紙を書くことになった。

オリバーは、同郷の仲間で、ナタリーと2年間同じクラスでもあった。



美術部の数少ない男子生徒だったオリバーは、数学が得意で、いつも教科担任のヴェラ・ストラウド先生に褒められていたらしい。

他の教科でも成績優秀で、ナタリーと仲がよかった。



数学が分からないときは、オリバーに教えてもらうのよ、と笑っていたナタリーを思い出した。


天国で、一緒に勉強でもしているのかもしれない。




少し・・・妬ける。

ペンを取る。



簡潔な挨拶。

そして、自分の名前。


そして・・・・・・



『今回は、ひどく残念な報せをしなくてはなりません』



書きたくない。

報せたくない。


嘘だったらどんなにいいだろう・・・




『オリバーは、このたびの戦闘で命を落としました』
『オリバーは、勇敢に戦い、敵を恐れずに・・・』



書きかけ、便箋を破った。





敵って何だ?

同じ国の兵は、敵だったのか?

本当に?




・・・本当に?
「アレン?」

「・・・あぁ、パトリシアか」



声をかけてきたのはパトリシアだったが、その後ろには、ロルフやダニエル、アグネスたちがいた。


彼女の姿だけが・・・ない。





「今から寮が開放されるそうよ」

「寮が?」

「戦闘が休止したから。荷物もまとめなきゃいけないし」

「・・・そうだな。ちょっと待っててくれ。俺も行く」

「えぇ」





便箋は、ポケットにしまった。