ナタリーは、15歳の春、全寮制の高等学院に入学した。
各国から優秀な生徒たちが集う学院で、ナタリーは学校生活を送る。
穏やかで、平凡な日々を過ごしていたナタリーだったが、戦争の影が学院を襲うようになり・・・
物語は、20世紀前半頃・・・
国境近くの歴史ある学院での出来事であった。
私の名は、ナタリー・マルグリット・ロムニエル。
ごく普通の17歳だ。
この学院に入学して、2年ほど。
もう2年生になった。
今までは、平凡で幸せな日々だったのに・・・
「アレン・・・」
隣を歩く恋人、アレン・ヘンリー・ジョーンズに呼びかける。
「うん?」
「・・・なんでもない」
「何だよ・・・」
「ううん、すごい普通で幸せだな、って」
学校から寮までの帰り道を一緒に歩くのが、付き合い始めてから、ずっと変わらない私たちの習慣。
そして・・・これも。
女子寮まで送ってもらい、人影のない場所で口づけを交わすのも、私たちの習慣だ。
照れたみたいな、優しい口づけ。
変わらない私たちの習慣。
「ん・・・っ」
「・・・おやすみなさい」
「あぁ。じゃあな」
そうやって、言葉を交わすことも。
こうやってごく自然に出た言葉さえ、叶うと信じられない。
アレンも、私も・・・
いや、この学院の生徒みんなが・・・
「お帰りー」
部屋に入ると、一足先に帰ってきていたルームメイトが勉強をしていた。
「ただいま。パトリシア、早かったのね」
「うん。ナタリーは、今日もアレンと?」
「もー、毎日同じコト訊かないでよぉー」
彼女は、パトリシア・フローラ・バークス。
栗色の髪に、水色の目がかわいい美少女だ。
「パトリシアも、ロルフが送ってくれたんでしょ?」
「もちろんよ」
パトリシアも恋人がいる。
ロルフ・ハインリヒ・ウィンスブルッグだ。
バスケが得意で、クラブではエースだとか。
アレンも、テニス部で一番の強さ。
誇らしい恋人だ。
私とパトリシアは、同じ新聞部。
それに、アレンとロルフもルームメイトだから、よく一緒に出かけたりする。
去年は、それぞれ、クラスメイトでもあった。
アレンとロルフは、先生たちの手を焼かせるコンビ。
まぁ、ロルフがやらかして、アレンが巻き込まれるパターンが多かったみたいだけど。
私たち4人は、とても仲良しだ。
でも・・・迫り来る戦争の影におびえていた。
アレンとパトリシアの故郷が、私たちの国と戦争を始めようとしていたからだ。
また、ロルフのふるさとも、中立を保とうとしていながら、対立を深めていった。
『明日』が叶う保証はどこにもない。
『明日』を生きている保証はどこにもない。
今夜にも襲撃されるかもしれない国境近辺には、いつだってその不安がある。