腕の中のパトリシアをより強く抱きしめる。
細い体つきの彼女にとっては、痛いくらいだろうと分かっていながら。
「俺が死んだとしても、どうか、パトリシアだけは生きてくれ」
背中に回された腕が、優しく俺の体を包む。
パトリシアの細い腕が、まるで聖母のようだ。
「・・・生きるわ」
だからあなたも、と声が絞られる。
「あなたも生きて・・・」
叶うなら、私のために。
どうか、生きて。
声にならない声をパトリシアが吐き出す。
さっきまで目の前に広がっていた苦い夜の色が、ひどく甘やかに映った。
そうか・・・
そうだよな・・・
生きなきゃ・・・いけないよなぁ。
遠くなった友に向かって語りかけた。
少しだけ、遠いはずの生が近づいた気がした。
「あふ・・・ぁ」
目が覚めた。
寒い。
本能的に、そばにあったあたたかいものに身体を寄せた。
「ん~~~~・・・ん?」
何となく違和感。
目をこすると・・・
「おはよ」
「わ、わわわわわっ、ああああ、あれん!」
「・・・傷つくなぁ、その反応」
「あ、ああああ、っと、失礼しました」
そっか・・・私・・・
自分の全てを変えたんだ。
「じゃ改めて」
軽くついばむように口づけられた。
「おはよ、ナタリー」
でも、やっぱり恥ずかしい・・・
「服着るから。・・・見ないでね?」
「何を今さら。昨日の夜は・・・」
「もう!怒るよ!」
「はいはい、こっち向いてますよ」
ちょっとふてくされたように、アレンがそっぽを向いた。
だって・・・恥ずかしいじゃん・・・
屋根裏の窓から差し込む朝日が眩しい。
あぁ・・・こんなに世界って綺麗だったっけ?
身支度を調え、髪をとかす。
そういう日常的なことが出来る程度には、私はこの屋根裏になじんでいたのだ。
「行こうか」
「えぇ」
私たちは、もう一度キスをして、部屋を出た。
幸福な思いが胸に満ちていた。
あぁ・・・ようやく。
形を持って、彼女を愛せた。
ほっとしたような。
満足したような。
何かが終わってしまったような。
これでいい。
このままの愛が続けばいい。
守り抜いてやる。
身体を重ねた今。
その思いが強くなる。