君の生きた証~love in war~

こんな静かなキス、初めてだった。

いつも、くだらない冗談や遊びみたいにキスしてたから。



それに、こんなに異性の存在を心地よく、愛おしく思えたのも初めてだった。





アレンと部屋で交わしていた会話を不意に思い出す。








『ロルフ、もう無駄にエレノアをいちゃつくのはやめろ』


制服を脱ぎながら、ため息をつくアレン。


『パトリシアが泣くだろ』

『へぇ、お前はそういうのないのかよ』

『・・・そういうのって』

『女遊びは、男の本能だろ。あ、ナタリーが扇情的過ぎて、他の女にはそういうこと思わないとか?』

『・・・俺たちは、お前が思ってるほど大人じゃねぇよ』



アレンは、少し困った様子でそう言っていた。



『相手がそばにいるだけで、心が安らぐ。キスするだけで、世界の全てが愛おしく思える。そんな恋が、あるんだよ』




そのときは、もう2人はキスまで進んだのかとぼんやり嫉妬しただけだった。

だが、今なら。




体を重ねて抱き合うことでなくても、相手を大切にするすべを俺は知っている。

静かに静かに、唇が触れ合い、心臓の音だけがやけにうるさく感じられる。


パトリシアの鼻先にうっすら浮いたそばかすがぞくぞくするほどあでやかだ。




愛している、と呟いてみる。


彼女が遠くならないように。

自分が壊れてしまわないように。



「・・・生きてくれ」

腕の中のパトリシアをより強く抱きしめる。

細い体つきの彼女にとっては、痛いくらいだろうと分かっていながら。



「俺が死んだとしても、どうか、パトリシアだけは生きてくれ」

背中に回された腕が、優しく俺の体を包む。

パトリシアの細い腕が、まるで聖母のようだ。




「・・・生きるわ」


だからあなたも、と声が絞られる。


「あなたも生きて・・・」





叶うなら、私のために。

どうか、生きて。







声にならない声をパトリシアが吐き出す。

さっきまで目の前に広がっていた苦い夜の色が、ひどく甘やかに映った。





そうか・・・

そうだよな・・・




生きなきゃ・・・いけないよなぁ。








遠くなった友に向かって語りかけた。



少しだけ、遠いはずの生が近づいた気がした。

「あふ・・・ぁ」


目が覚めた。

寒い。

本能的に、そばにあったあたたかいものに身体を寄せた。




「ん~~~~・・・ん?」



何となく違和感。

目をこすると・・・




「おはよ」
「わ、わわわわわっ、ああああ、あれん!」

「・・・傷つくなぁ、その反応」

「あ、ああああ、っと、失礼しました」



そっか・・・私・・・



自分の全てを変えたんだ。




「じゃ改めて」


軽くついばむように口づけられた。


「おはよ、ナタリー」
でも、やっぱり恥ずかしい・・・



「服着るから。・・・見ないでね?」

「何を今さら。昨日の夜は・・・」

「もう!怒るよ!」

「はいはい、こっち向いてますよ」



ちょっとふてくされたように、アレンがそっぽを向いた。

だって・・・恥ずかしいじゃん・・・
屋根裏の窓から差し込む朝日が眩しい。



あぁ・・・こんなに世界って綺麗だったっけ?