君の生きた証~love in war~

「苦しくても、痛くても、悲しくても、生きていこう。卑怯でも最低でも、関係ないよ。・・・一緒に抱えていこう。一緒に生きよう」





無理矢理、そっと微笑む。




夜明けが近い。

朝焼けに空が染まっていく。
生きていこう。

絶対に死ぬものか。

死なせるものか。

生きてやる。





すさまじい生への執着が身体を湧かせる。






私は・・・こんなにも生きることに貪欲だ。

愛されないと分かっても、生きたいのだ。






叶うなら、彼とともに。








あぁ・・・今日も・・・朝日が眩しい。
「一緒に生きていこう」







パトリシアの言葉を聞きながら、視線は、墓標に向いていた。




「苦しくても、痛くても、悲しくても、生きていこう。卑怯でも最低でも、関係ないよ。・・・一緒に抱えていこう。一緒に生きよう」




あぁ・・・

こんな俺でも、一緒に生きたいといってくれる人がいる。



救われた気がした。





そして・・・俺は、この目の前の少女をはっきりと自分のものにしたいという衝動にかられた。
すぐ近くにあったぬくもりなのに。

手を伸ばせば届いた距離なのに。


今、みんなはいない。






こんな苦しすぎる現実、誰がまともに生きていけるだろう?







夢幻に溺れた俺は、ようやく現実を見つめた。

そして、その現実を愛おしいと思った。




愛おしさは、ふいに、衝動へと変わり、俺は、どうしようもない情熱を抑えられなくなった。
いつもとは、どうしても違う緊張が走る。

彼女の頬に手を寄せるのも、顔を寄せるのも、なんだかひどく不器用な手つきになってしまった。



ドロテアのときも。

エレノアのときも。

クロディーヌのとき、他の誰かとのとき。




後継ぎとしてしか見られない、やるせなさを埋めるためのように口づけを交わした、自堕落な日々。

一刻も早く忘れたかった。
どこかから、何かの焦げるにおいがする。



死体を焼いてるのか・・・




自分でも、冷え切った主観にぞっとした。



灰になっていく・・・

大切な友達が・・・



その惨状を悲しむ正気すら、俺にとってはもう残骸と化している。




俺は、もう・・・限界だ。






そう思って、静かに口づける。

こんな静かなキス、初めてだった。

いつも、くだらない冗談や遊びみたいにキスしてたから。



それに、こんなに異性の存在を心地よく、愛おしく思えたのも初めてだった。





アレンと部屋で交わしていた会話を不意に思い出す。








『ロルフ、もう無駄にエレノアをいちゃつくのはやめろ』


制服を脱ぎながら、ため息をつくアレン。


『パトリシアが泣くだろ』

『へぇ、お前はそういうのないのかよ』

『・・・そういうのって』

『女遊びは、男の本能だろ。あ、ナタリーが扇情的過ぎて、他の女にはそういうこと思わないとか?』

『・・・俺たちは、お前が思ってるほど大人じゃねぇよ』



アレンは、少し困った様子でそう言っていた。



『相手がそばにいるだけで、心が安らぐ。キスするだけで、世界の全てが愛おしく思える。そんな恋が、あるんだよ』




そのときは、もう2人はキスまで進んだのかとぼんやり嫉妬しただけだった。

だが、今なら。




体を重ねて抱き合うことでなくても、相手を大切にするすべを俺は知っている。

静かに静かに、唇が触れ合い、心臓の音だけがやけにうるさく感じられる。


パトリシアの鼻先にうっすら浮いたそばかすがぞくぞくするほどあでやかだ。




愛している、と呟いてみる。


彼女が遠くならないように。

自分が壊れてしまわないように。



「・・・生きてくれ」